三度の飯より本を愛するこぎ父(こーぎーの父親(80歳))より、読書感想文が届きました。
今回ご紹介するのは、森見登美彦の『熱帯』(文藝春秋 2018年)です。
『熱帯』を読んで
何とも不思議な物語である。
“汝にかかわりなきことを語るなかれ
しからずんば汝は好まざることを聞くならん”
初めから何やら謎めいている。
次から次へと軽やかなリズムに乗せられて、次にどんなことが待ち受けているのか、ワクワクしながら読み進めた。
『熱帯』という本当に出版されたらしい幻の本、その本の著者はその後行方不明という。
たまたま友人から紹介されて参加した、沈黙読書会という初めから奇妙な集まり「学団」
この本のことに興味を持った何人かの人たちが織りなす出会い、
東京・京都・・・その本を追いいろいろ奇妙な物語が出現する。
千夜という不思議な名前を持つ女性、この物語の主役のひとりで『千一夜物語』への仕掛けを想像させられる。
この本の随所に『千一夜物語』の場面が挿入されてより、本筋と合せて興味をそそられる。
幼い頃から馴染み深くいきたアラビアンナイトの童話の世界とは全く別の大人の『千一夜物語』があることを知る。
その『千一夜物語』の中に出てくる「砂漠の宮殿」「満月の魔女」・・・
それを追うように出現する“暴夜書房”“不可視の群島”など奇妙な名前に思わずその中に引き込まれる。
それにしても、著者 森見登美彦の現実から空想への発想の見事さはどこから来ているのであろうか。
かつて山本周五郎賞を受賞した『夜は短し歩けよ乙女』の軽やかなリズムとやっぱり通底しているのだろう。
これからも、この明るいリズム感をもち、同時に、壮大なテーマに挑む著者の今後の作品を楽しみにしている。