三度の飯より本を愛するこぎ父(こーぎーの父親(80歳))より、読書感想文が届きました。
今回ご紹介するのは、今野勉の『宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人』(新潮社 2017年)です。
『宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人』を読んで
宮沢賢治の本は、幼い頃から知っていた。
奥信濃の片田舎の町の桶屋の七人きょうだいの下から三番目の子どもに生まれた亡き父は、勉強が好きだったが中学には入れてもらえずその頃の小学校高等科で卒業、地元の配電会社(現在の電力会社)へ“小僧”という職身分で就職した。
やっぱり何とか知識をつけたいと思ったのであろう、本を買うことでその気持ちを満たしていたらしい。
その中にザラ紙造りの宮沢賢治全集もあった。
従って、『風の又三郎』『どんぐりと山猫』など童話は幼い頃から身近にあった。
長じてからも、宮沢賢治の名前は心の内にあり何冊か読んだ。
少し前には角川書店の『本の旅人』という冊子に連載された、梨木香歩の『きみにならびて野にたてば』が面白かった。
今回の本の著者は、大学学生寮時代の2年先輩である。
先年、毎年1回開催されるこの学生寮出身者の“青春の集い”で著者から「宮沢賢治の本」を執筆中であることを知らされた。
著者は、テレビマンとして数々のドラマの脚本家、演出家として活躍し、かつて観たNHKスペシャル“童謡詩人 金子みすゞの世界”はとても感銘した憶えがあった。
私の故郷長野での“冬季オリンピック開会式”の演出・映像監督もした。
そして2年前この本が発刊されたので直ちに求め、一気に読み進んだ。
賢治の盛岡高等農林時代の保阪嘉内への“同性への愛”については先述の梨木香歩の本その他でも取り上げられているが、今回著者は“賢治全集”を改めて通読し、その時代の地元新聞、古地図、文献などかなりの資料に基づいて書き深めている。
賢治の思いに対する保阪の心の内、叫びも切ない。
そして、この本で取り上げた最愛の妹とし子の“恋”は初めて知った。
これまで読んだ本の中にある とし子の臨終での賢治の『永訣の朝』の詩
“けふのうちに
とほくへいってしまふ
わたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ”
“ (あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつさう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
(あめゆじゆとてちてけんじや)
・
・
・”
この“あめゆじゆとてちてけんじや”で始まる詩は余りにも有名だ。
そして今回この本を読んで知った“とし子の恋”の内容を思うと余りにも切ない。
これまでに“とし子の恋”を書いた本はあっただろうか。
この本は、1年半前に第15回蓮如賞を受賞した。
日本の精神文化を深く捉えた優れたノンフィクション作品に贈られる賞である。
そして此の度NHKテレビでこれを原作とした映像詩
『宮沢賢治
銀河への旅
慟哭の愛と祈り』
が放映されるとの知らせがあった。
この内味の濃い本が、そして何よりも“妹とし子の恋”がどのように取り上げ脚色されているのかテレビ放映が待ち遠しい昨今である。
そして、著者と次回の“学生寮青春の集い”でそのことを話題にできることを楽しみにしている。