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象使いティンの戦争・きらきら(シンシア・カドハタ)|こぎ父の読書日記

シンシア・カドハタの『象使いティンの戦争』と『きらきら』を家の本棚にしまうこぎ父です。

三度の飯より本を愛するこぎ父(こーぎーの父親(80歳))より、読書感想文が届きました。

今回ご紹介するのは、シンシア・カドハタの『象使いティンの戦争』(作品社 2013年 代田亜香子訳)と、『きらきら』(白水社 2004 代田亜香子訳)です。

『象使いティンの戦争』『きらきら』を読んで

定期購読している、みすず書房発行の『みすず』2019年4月号に載っていた『象使いティンの戦争』そしてその本の巻末訳者あとがきで知った同作者の『きらきら』。

『みすず』の連載「戦争と児童文学 6」(国家と民族のはざまで生きる人々
ー繁内理恵 記)に

「狂気のジャングルを生き延びる少年が見た星(ムトウ)」と紹介されている。

 

ベトナム戦争と少数民族をテーマにした作品。

早速取り寄せて一気に読み終え、さらに、この作者の“民族への関心”に誘われて、

『きらきら kira kira』の題名にも興味を覚え直ちに注文、読み進んだ。

 

まず『象使いティンの戦争』から始めよう。

 

同じ民族が北と南に分かれて、それぞれ大国の思惑のままに戦う悲惨さは、“ベトコン”“枯葉作戦”などの言葉と共に記憶に生々しい。

太平洋戦争後、数年後に勃発した“朝鮮動乱―朝鮮戦争”と共に決して忘れてはならない民族の悲劇だ。

 

主人公ティン・エバンは南ベトナム中央高地に住むラーデ族の11歳の少年で、本格的な象使いを目指している。

このラーデ族は、ベトナムの“デガ(山の人)”の中でも一番大きい部族だ。

多くの人がアメリカ特殊部隊の仕事を手伝っている

ティンの父もそのひとりだ。

そして、ティンは丸太運びの象レディと仲良しだ。

早くこのレディを一人前に使えるようになりたいと励んでいる。

学校へ行くより、その方が大好き。

ティンは、北ベトナム軍とベトコン(南ベトナムの反政府ゲリラ)は自分たちの村には手を出さないだろうと想像していた。

自分たちの部族はこれからもずっと、この土地で暮らしていけるだろうと思っていた。

そしてレディは子どもを身籠っている。

この村では、まだ誰も象の子を育てるのに成功していないので、ティンは自分がそのひとり目になろうと心に決めていた。

しかし、ある時ティンは父から、

「しばらく象のことは忘れてくれ」と言われてびっくりする。

アメリカ特殊部隊に協力していたデガ族を北ベトナムかベトコンが襲ってくるかもしれない、だからジャングルに移住してゲリラのキャンプをはろうと思う、と言うのだ。

そして、それが現実となる。

村中に銃声が飛び交い、ティンはレディを連れてジャングルを目指す。

しかし、北ベトナム兵に捕まってしまう。

村は占領され、ティンは長屋の梯子に逆さ吊りされる。

そして、いきなりロープを切られ、頭から泥の中に埋まって、雨の中少しずつ上がってくる水位に遂に死を覚悟する。

殺された村の人たちを埋める墓掘り作業の命令・・・。

そしてある夜脱走、ジャングル目指して。

レディとの再会・・・、父と母とも。

レディが生まれたばかりの子象の頭を鼻で撫でている!

ティンは子象をまじまじとながめる!

子象にムトウという名前をつけることにした。

星(ムトウ)のようにきれいだから。

そして、6日間のレディとムトウとの旅の中でティンは決心する。

子象を自分で育てることはやめよう、野生に戻そうと。

そして自分は戦争の無いタイに行こう、象に関係する仕事も見つかるかもしれない、自分の未来は自分が愛する国の中には無い!

なんてひどいことなんだろう。

でも、それが戦争だ!と。

 

 

もうひとつの本『きらきら』は、アメリカアイオワ州で生活が成り立たなくなって遠くジョージア州まで引越して、父は養鶏場でヒヨコの雌雄鑑別士として、母は鶏肉加工工場で鶏の捌き作業員として働く親子5人の物語。

1951年(昭和26年)頃、アメリカに暮らす日系人には、こんな仕事しかなかった。

父は寝るのも惜しく工場で泊まり、仮眠、そして母も、トイレに行く時間も惜しく“オムツ”をして立ち仕事。

主人公はケイティという女の子、そして姉リン、弟サム。

そんな酷しい生活の中、この姉妹は日系人という苦い差別を受けながらも、いつか父母のために大きな家を持つべく小遣いを貯め始めたりする。

しかし、きょうだい三人でその昔奴隷を使っていたらしい広大な原っぱを所有する白人のその草原で遊んでいた時、弟サムが動物捕獲用ワナに足をひっかけ大怪我をする。

そのうえ姉リンがリンパ腫を発症する。

家のローン返済、リンの治療費支払に、父母はそれまで以上に一心不乱に働かざるを得なくなる。

そして、その甲斐も無く、リンは逝去。

主人公ケイティは、姉の看病の間の姉との確執に後悔する。

(看病する妹と看病される姉との口論、両者とも疲れて。)

そして、リンがいつか住みたいと願っていたカリフォルニアに一家で旅行に来て、主人公はコオロギの“コロコロ”、カラスの“カーカー”、風の“ヒューヒュー”にも“きらきら”と聞こえた。

リンは私に「世界は“きらきら”光っていると教えてくれた、そんなどこにでもあるものが魔法のようにすてきなものになるのだ」と。

そして、リンが見たかったカリフォルニアの海の波の間から

「きらきら!きらきら!」というリンの声が聞こえてくる。

 

 

この二冊の本、場所(国)、時は異なるが、厳しい環境にありながらそれぞれの主人公のやさしい気持ちに深く感動した。

そして、まだまだ現存する戦争、差別に憤りを覚えた。

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