暮らし

その瞬間、私は感動していた。

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窓際に腰かけてお花見をするこーぎーです。

4月初旬。
午後。

郵便を出しに車で出かけたツレ。

5分10分たった頃だろうか。

車のエンジン音に気がついて
玄関に迎えに出た。

 

「おかえりなさい」

 

にこにこ顔のツレが帰ってきた。

 

「桜が満開だよ」

 

私には、ツレの笑顔が満開に見えた。

 

「お花見をしようか」

「そうしましょうか」

 

ツレは一番日当たりのいい部屋の
網戸を開け放った。

「ここからでもよく見えるんじゃないか?」

家の中からでも山の桜を眺められる。

 

コーヒーを片手に
窓際に腰かけたツレ。

春の日差しが降り注ぐ。

眩しさからか、
満開の桜が嬉しいからか、
山の方を眺めながら目を細めている。

 

 

美しい。

 

 

お日様のスポットライトを浴びるツレの姿に、
私は見蕩れてしまった。

 

美しい。

 

しばらく
ツレの姿を眺めていたい
気持ちもあったけれど、
それではお花見にならない。

ほうじ茶を入れたコップを片手に、
ツレの隣に腰かけた。

 

なんでもない瞬間を
一緒に過ごせる人がいる。

なんて幸せなことなんだろう。

永遠には続かないとわかっている今も、

いろいろあるけれど、

一緒にいられる今が、

幸せだ。

 

しばらくすると、
クマンバチが威嚇するような
羽音を響かせて近寄ってきた。

 

「危険なハチじゃないよ」

 

ツレは落ち着いた口調で言うのだけれど、
羽音と私の気持ちは
どうにも落ち着かない。

もうしばらく
どこかに飛んでいくのを
待ってみたものの、
なかなか近くを離れない。

「網戸を閉めようか」

 

結局、
開け放った網戸は
数分のうちに再び閉められ、
お花見は網戸とガラス窓越しに
ソファーに腰かけてすることになった。

 

隣に並んで過ごす時間。

 

ああ。

 

なんて心地よいのだろう。

 

 

花見をした翌日。

明け方から降り出した冷たい雨に、
桜はだいぶ
花びらを落としたようだった。

 

あと何度、
一緒に桜が見られるだろうか。

 

そんなことを考えてしまう
春の一日だった。

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