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この地上において私たちを満足させるもの(乙川優三郎)|こぎ父の読書日記

乙川優三郎の『この地上において私たちを満足させるもの』を家の本棚にしまうこぎ父です。

三度の飯より本を愛するこぎ父(こーぎーの父親(80歳))より、読書感想文が届きました。

今回ご紹介するのは、乙川優三郎の『この地上において私たちを満足させるもの』(新潮社 2018年)です。

『AFTER YEARS OF WAND DERING THE SECOND WAVE
この地上において私たちを満足させるもの』を読んで

「良い本に巡り合った」

そんな気持ちで一気に読み切ったこの本。

目次を拾うなら、

゛学ぶソニア
ムジカノッサの夜
丘の上の下町
乞食と女中とサンダル売り
反逆者製作所
賢いウエイトレス
ジェシーのように
ティアレの島
確かな人々
ジェット機のサンバ”

の10篇の小物語の集合であるが、このうち

“賢いウエイトレス”が

最も気に入った。

 

作家である主人公が、完成した原稿を出版社に送り、小暇を得た秋の終り、信州の山辺の古い旅館を訪れる。

以前、女優の別荘として使われていた露天風呂もある部屋に泊まって、山菜、蕎麦、胡桃といったその土地の食材を使った懐石膳を楽しんだ時のこと。

膳を運んできた若い女中は、会話の中でミャンマーからの難民と知る。

そして食後、眠るのが惜しくバーを覗いた。

バーテンダーとウエイトレスひとりいるきりのささやかな空間。

カウンターとテーブルふたつだけ

それでもエレガントな照明とジャズがそれなりの雰囲気を醸し出していた。

先程の女中がウエイトレスだった。

装いを変えただけで、東洋の美人になっていた。

先客がいて、地元の名士らしく、ゆったりと構えてバーテンダーのお愛想を意に介さず、ウエイトレスへ英語でからかい口説きに一生懸命。

 

その会話が何とも滑稽だ。

その好色の銀髪男の口説き、

一方、ウエイトレスのキリっとした拒絶、

そしてウエイトレスの止めの言葉、

「私がミャンマーでブスのように、
あなたの英語はミャンマーでは小学生レベルです」

捨て台詞を吐きながら、ふらつく足取りで出ていく老兵を、小気味好い感じであしらい見送った後、もう客も来ない夜、バーテンダーも加わって、ゆっくりミャンマーの話を聞いてやる主人公。

この物語でも、女性へのいたわり、異国で一生懸命生きる人たちへの思いやり、

このほかの全篇にも通ずる。

この作者の自伝とも思わせる。

10篇の物語。

貧しい下町に生れ、製鉄所に職を得て、労働組合の所謂“だら幹”に体よく使われ騙されて退職の憂き目に合う。

そして、ヨーロッパ、アジア・・・海外放浪。

その間、その土地、その場所で様々な人と遭遇、

作家としての自立の道で出会う編集者の励まし、愛・・・、

いとしい人たちとの出会い、別れ・・・。

 

今は太平洋を一望出来る小高い家で

ゆっくりひとりで自分の半生を回顧しながら

物書きをして過ごしている作者。

 

この本と同時に発売された

AFTER YEARS OF WANDERING THE FIRST BLOW

『二十五年後の読書』(新潮社 2018年)も

エッセイストから書評家に転じた一人の女性の物語、

併せて一読することをお勧めする。

この地上において私たちを満足させるもの

この地上において私たちを満足させるもの

優三郎, 乙川
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二十五年後の読書

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