三度の飯より本を愛するこぎ父(こーぎーの父親(80歳))より、読書感想文が届きました。
今回ご紹介するのは、朴沙羅の『家(チベ)の歴史を書く』(筑摩書房 2018年)です。
家(チベ)の歴史を書くを読んで
中学の同級生の彼は勉強もよく出来て走るのも速かった。
学芸会で一緒に“やまびこがっこう”に出演した。
お兄さんも体が大きく、やっぱり優秀で応援団長を勤めた。
この彼の姓と同じ名前の外国人収容所が九州にあるのも知った。
奥信濃の片田舎の町に今では差別語となっている朝鮮部落があった。
木造のかなり大きなアパートだった。
彼の親族がどのような仕事をしているのか知る由もなかったが、近くには戦時中大本営に使用すべく山をくりぬいた松代の洞窟があり、その作業に朝鮮の人たちが働いていたことも知った。
彼は優秀だったが、所謂全日制ではなく、昼間働いて夕方から通う定時高校生となった。
そんなこともあり、朝鮮から日本に渡ってきた人たちのことは以前から興味を持っていた。
以前、金石範の『火山島』の発刊の折は高価で買えなかったが、戦後の朝鮮を象徴する「済州島 四・三事件」についてはずっと興味を持って過ごした。
岩波現代文庫の文京洙の『済州島 四・三事件』も購入して読んだ。
今般も朴沙羅の本の発刊を知るや直ちに購入した。
そして、短い日数で読み切った。
岩波現代文庫で知っていた『済州島 四・三事件』の正にその場所に生れ、過酷な運命に翻弄された人たちの“ナマ”の歴史を知ることになった。
この本の中にも、中学の同級生の姓と同じ収容所の名前も出てきた。
済州島から日本に渡った経緯はいろいろの事情があるにせよ、日本語も殆ど分らないまゝ、大阪。川崎…知人を頼り、いろいろな職業(決して楽な仕事ではない)に従事しながら、生きて命を全うした人、叶わず早世した人…身に迫るものがあった。
著者が親族に質問しても、適確に答えが得られず、その理由に身内のそれまでの、それぞれの歴史を推測して、現在の自分の立場のありがたさを思う気持ちにも心を打たれた。
今でも引続き差別に苦しみ虐げられている在日の人たち、戦後日本に一端の責任なしとは言えまい。
現在日本と韓国の間でギクシャクしている所謂慰安婦、徴工問題など、我々はもう一度冷静に「歴史」を振り返ってみる必要があるのではなかろうか。
この本が出来るまでの著者の努力に敬意を表したい。
さらにご活躍を祈ります。