こぎ母は忙しい。
曜日別に組んでもらっているデイサービスに、訪問で来てもらっているリハビリ、そして月に1~2度のショートステイ。
月イチで訪問のあるケアマネージャーと看護師さんの対応。
こぎ父が管理しているカレンダーは予定で埋まっています。
こぎ父自身の活動・通院や外に出かける用事などは基本、こぎ母の予定に合わせて(ずらして)動いている状況です。
曜日が決まっていないショートステイの予定は、1~2ヶ月ほど先の日程がケアマネージャーから電話であります。
施設の利用可能な日程を伝えてもらい、一旦その他の予定(通院などとかぶらないように)を確認して「その日程でお願いします」とまたこぎ父が電話をするような形です。
「○月〇日から〇日はどうですか?」
「確認してまた電話します~」
「その日程でお願いします~」
といった感じです。
希望が叶うかどうかはともかく、希望する日程があれば指定してお願いすることももちろんできるそうですが、こぎ母の予定に合わせて動いているこぎ父のこと。
空いているタイミングが合えばそれでいいと、これまでに希望日を伝えたことはありません。
その日、ケアマネージャーからの電話を受けたこぎ父がしばらくしてから暗い表情で尋ねてきました。
「らっこさんはどう思う?」
最初に話を聞いて思ったことは、こぎ父がケアマネージャーからの電話を切った後に、すぐに話を聞きに行けばよかったなということ。
聞こえてくる声からショートステイの日程のことだろうと推察して、あとで予定を確認すればいいと思ってしまっていました。
らっこの後悔と反省はひとまず置いておいて、話の内容です。
こぎ父の話によると、ケアマネージャーからは
「ショートステイのキャンセルで空きが出たようだ。来月 3泊4日の利用はどうだろうか?」
という連絡だったようです。
さっそく予定を確認してみると、今回連絡があった日程の前の週、すでに2泊3日のショートステイが決まっていたのです。
こぎ父としては、行って帰ってきてすぐ次の週にまた行って――というスケジュールは嫌だったようです。
嫌だと思ったんだと思います。
ショートステイから帰ってくると、こぎ母は自分がいる場所がどこだかわからなくなってややこしいから、それでまたすぐに行くとなるとややこしいから、今回の日程は断ろうと思う。
だいたいこんなことでした。
そこでこぎ父は、らっこに話す前にツレに、ケアマネージャーから連絡があったけど今回は断ろうと思うということを伝えたようなのです。
するとツレの反応はこぎ父が考えていた反応ではなかったようです。
ツレのスタンスは
ショートステイを利用できる時には利用する。
宿泊を伴うこぎ母の不在がある時しか、こぎ父が自分一人の時間を持ってゆっくりすることができないのだから。
瞬間瞬間でとらえればですが、互いに一人で過ごす時間ものんびりと本を読んだりする時間もあります。
ゼロではないです。
それでもそれは時間を気にせずゆっくりできる時間とはやっぱり違うんです。
ツレはこぎ父の負担を考えて(負担の先にある崩壊を防ぐために)ショートステイの利用をすすめます。
こぎ父は、これまでのショートステイ明けのこぎ母の様子を考えて断ろうとしています。
数日自宅を離れてよそで過ごして帰ってきたことで、記憶やらなにやら一部混乱や興奮するかのようなこぎ母のこと、そんなこぎ母に対応する自分のことを考えている――
(とらっこは感じました)
らっこは口には出しませんでしたが、こぎ父が心配していた
「こぎ母がショートステイに行って帰ってくると、自分が今どこにいるのかわからなくなる」
(だからややこしくなるからあまり連続で行かせたくない)
という症状に関しては、たまたまこぎ父が瞬間意識に上って言葉にしたことのひとつであって、そのことが利用を躊躇わせる要素のすべてではないであろうことも思いましたが、それでも思ってしまったのは
「それはいつものことですよ」
と。
場所や時間がわからなくなってしまう症状を見当識障害と言うようですが(らっこ調べ)それはいつものことじゃないですかと。
それでもこぎ父の意識に上るというのは、つまりは帰宅後のこぎ母の対応
「ここはどこ?」
「実家でしょ?」
「誰の家?」
「おじいさんの家でしょ?」
などなど。
いつも以上にこぎ母の対応をこぎ父に抱えさせ過ぎてしまっているということでしょう。
こぎ母が質問する相手がこぎ父だということもあり仕方がないようにも思います。
(この「仕方がない」というのは抱え込んでいる本人には言うことではないし、そこをどうするかを仕方がなくない周りが考えられるといいのですが、なかなからっこの頭では考えが及びません)
日頃からあるこぎ母の症状ですが、ショートステイの後はいつもに増して負担だったのだろうなということに今さら気が付くという。
頭のどこかで「ああ…‥これが」
かと。
裏を返せばありがたいことに、普段の生活ではらっこは板挟みになるような状況はほとんどないんだなあと気が付きました。
そして同時に、意見(?同意?)を求められてはいるけれど、
らっこに決定権はない。
うん。
ここで答えを出すのはこぎ父で、らっこではない。
うん。
らっこもカレンダーを見ながら予定を確認しました。
うん。
「もしも今回提案があった日程をお断りしたいのであれば、もともと決まっていた2泊3日の予定の方をキャンセルしてもらうことにして、3泊4日で利用できる今回の日程で動くのはどうですか?
2泊3日だと結構あっという間で慌ただしいですし、今からだったらキャンセルをお願いするのも大丈夫だと思いますよ?」
どうですか?
「ああ、なるほどね……」
多少なりともこぎ父の選択肢を増やせたかな?と思いつつ、こぎ父は再びツレのもとへ相談に。
行ったり来たりしているのがこぎ父だったので、こぎ父の方が板挟みっぽいか?
少々語気の荒いツレの声。
こぎ父とツレの相談は決裂したらしい……
こぎ父は硬い表情でケアマネージャーに電話をかけました。
らっこはツレのところに行って、決まっていた予定のキャンセルを提案したのはらっこであること、
今回の提案が3泊4日でもともと決まっていた予定が2泊3日だったので、連続するのが嫌でキャンセルするなら、利用期間の短い2泊3日をキャンセルして3泊4日で利用させてもらってはどうかと、らっこが考えて提案したことだったのだと伝えると、少し納得したようでした。
そうだったの?決まっていた予定の日数のことは確認していなかったよ、とのこと。
うん。
こぎ父のツレへの説明は、いろいろ端折っていたのかもしれません。
延々と悩んでいられるわけもなく、ケアマネージャーに連絡をしなくてはいけません。
電話をかけたこぎ父は、ケアマネージャーとしばらくの間、珍しいくらい長く話をしていました。
しばらくして2度目の電話が終ると、少しすっきりとした表情で
「ショートステイを利用させたくないわたしの気持ちも、利用させたい息子さんの気持ちもわかるって。
今すぐ結論を出さなくていいから、一晩考えてみたらどうですかって、言ってもらったよ」
そんな話でした。
ああそうでしたか。ありがとうございます。
ご自分の気持ちをケアマネージャーに聞いてもらって、決定までに時間をもらったこぎ父は、もう少し考えてみるよと言って一人になりました。
こーぎーさんは、お父さんのことを考えて言っていることですから
と、まあ、言わなくてもよかったのでしょうが、こぎ父に言ってしまったらっこです。
ご本人もわかっているのでしょうけどね。
その後数十分もたっていなかったと思いましたが、らっこがひとりでいるところにこぎ父がやってきて
と。
はい。
どんな風に考えてこぎ父が決めたのかは聞いていませんが、ご自分の中で折り合いをつけたのでしょうか。
ひと晩考えてもいいよと言われて一晩たたずにきちんと結論を出すところがさすがだなあなんて考えるらっこは、ずぼらの極みですね。
翌日、こぎ父はケアマネージャーに再度連絡をしてショートステイの日程は決まりました。
こぎ父から聞いてツレに話していたらっこですが、
少し戸惑っていました。
まあこぎ父も、らっこの口から伝え聞くであろうことを想像したのでしょうけれど、「らっこさんから伝えておいて」
くらい言ってもらえればらっこも戸惑いませんでしたが、次の日も
まあまあ。
ショートステイを利用する張本人のこぎ母を(蚊帳の外に)おいての判断になりましたが、これからもこぎ父が、家族が決断することを重ねていくのだろうなと感じた出来事でした。
読んでくださりありがとうございます。