三度の飯より本を愛するこぎ父(こーぎーの父親(80歳))より、本のあらすじをまとめた感想文が届きました。
今回ご紹介するのは、安田夏菜の『むこう岸』(講談社 2018年)です。
『むこう岸』を読んで
定期購読している『飛ぶ教室』(57 2019 SPRING)の書評紹介の見出し
「悲哀そのものが、人間を勇気づける」(加藤純子)
に惹かれて早速注文、届いた日のうちに一気に読み終えたこの本。
今の時代“格差社会”が生み出している“子供たちを待ち受ける諸問題”、その中で派生する“生活保護制度”のこと。
黒鉛筆による力強い表紙。
中表紙の装画(西川真以子)がまたすばらしく、手にした途端に引き込まれる。
主人公は12歳の山之内和真、同じく12歳の佐野樹希、それらしい人物像が表紙、中表紙に描かれている。
片や生活に全く困らない、父親が医者の息子、片や父親を交通事故で亡くし、病身の母と幼い妹を抱え、生活保護を受けて生活せざるを得ない少女。
ひょんなことから同級生になり、ひょんなことから助け合って生きて行くことになるこの二人。
幼い頃から塾通い一筋で名門私立中学に合格、入学しながら落ちこぼれ、自主退学、公立中学に再入学するも、転校の理由を知られたくない後ろめたさの気持ちでオドオドしながら居場所を失くしてしまった和真。
冷蔵庫にあった梅酒を麦茶と間違えて飲んでしまい、酔ったまま塾へ行く途中、陸橋の上で半身を乗り出して、車の中の流れの中にポチャッと落ちてしまいたいと幻想し “流れていくぞ!”。
その時、「なにやってんだよ!このバカッ!」と和真のおでこをひっぱたいて引き戻した樹希。
酔って交通事故で死んで今の自分たちの貧乏暮らしを引き起こした父親と二重写しになったのだ。
そしてこの和真を、いつも世話になっている「カフェ・居場所」で介抱してやる。
和真が酔って口走る転校の秘密を守る代りに、一緒に通っていた生活保護世帯向けの無料塾「あおぞら」の落ちこぼれ混血児 アベルの家庭教師役を引き受けさせることにする。
アベルは、ナイジェリア人の父親が失業、家庭内暴力で施設に預けられ、口をきけなくなってしまっていた。
和真は、当初は筆談しかできなかったアベルに教えることで自信を持って、この秘密を家族にも言えないまま、ここに今迄無かった自分の“居場所”を見つける。
一方、樹希は生活保護を受けてることで、学校でも日常生活でも種々嫌がらせを受けながらも気強く生きている。
ケースワーカーからいちいち細かい指示を受けることに辟易しながらも仕方なく我慢する毎日。
そして以前母が倒れて病院に担ぎ込まれた時、自分のことのように親身になって駆けずりまわって助けてくれて、今のように生活保護を受けられるようにしてくれた看護師になりたいと和真に自分の将来の希望を漏らす。
「その為には高校へ入って、大学や専門学校に行かなくてはならない、でもそれは生活保護を受けている限り無理。」
本当?
生活保護って一体何だ?
和真は決心する。
“生活保護”について調べてみよう!
そして父親の「貧乏は自己責任、努力が足りないからそんなところまで転落してしまうのだ、そういう奴らを、まっとうに働いている者が納めている税金で養っている、全く理不尽だ」の声に反抗。
そして図書館で生活保護関係の本を借り、市役所へ行って詳しく聞こうとするが窓口でけんもほろろに断られる。
たまたま同級生の叔父が大学の先生でいろいろ教えてもらうことが出来て樹希に伝える。
びっくりするやら嬉しいやら……。
和真、「貧乏は自己責任だという人もいるけど、この法律はそんな風には切り捨てない。
本当に困窮している人に手を差しのべてくれる、人間を信じていい気がする!」
そして、「カフェ・居場所」出入りの件が家族に露顕して和真は引きこもり生活になる。
家族を裏切ったことで却って解放感を覚える。
好きなように生きていくのだ!と。
一方、樹希は思い切って市役所を訪ねて和真から仕入れた生活保護に関する知識の実態を相談する。
そして、その結果を引きこもり中の和真に報告に行く。
これからの二人の人生の逞しい出発を願って読了。
単なる青春物語ではなく、むしろ大人向けの社会小説と思った。